年配の人と話すと、最近はコンピュータの性能構造がめざましく、こんな問題があっという間に解けてしまうなんてすごいねー。と言われます。そして昔はこんな計算できないから苦労しながら実験したもんだ。とも。
コンピュータの性能向上、CAE解析技術の向上により、高度な計算機能を手軽に利用できる環境にある私たちは本当に幸せなのでしょうか。また、昔に比べて技術レベルは上がったのでしょうか?
CAE解析を適切に実行するためには、現実に起こっている現象を再現させるに必要最小限の要素を抽出して数理モデルに置き換える作業が不可欠です。ということは少なくとも現象のメカニズムを理解していなければなりません。また、入力するパラメータや境界条件にはどのような値を用いるべきか、解析結果は妥当なものなのか、それらを適切に設定・判断できる技術も必要だと考えます。
そのような技術を身につけるためには、”勉強”も必要だということは間違いありませんが、実はそれだけでは不十分で、これまでのリアルな体験によって実感した”感覚”というものが非常に大事だと思っています。これはセンスと言われるような、ある意味持って生まれた能力のようなとらえ方をされる場合がありますが、そうではなくこれまでの経験によって培われるものだと考えます。
いわゆる五感に関わる話なのですが、CAEに関係するのは視覚、聴覚、触覚くらいでしょうか。例えば、ボールを投げたらどのような軌道を描いて落ちるのか、というような物理的な運動を頭の中でイメージできるかどうか(視覚)、50℃のお湯に手を入れたらどのくらい熱いか、風速5mとはどのくらいの風速か(触覚)、90dB(A)とはどのくらいの大きさの音か、440Hzってどんな音?(聴覚)、等々。
物体の運動をイメージできるかどうかは、主に遊びやスポーツなどの過去のリアルな経験から直接培われることが多いと思います。触覚や聴覚についても、もちろん過去の経験から理解できることも多いですが、これらは体感した時の状態を計測した経験も同時に必要です。お湯に手を入れた例で言えば、熱いという感覚は誰もがイメージできると思いますが、それが何℃だったのかは計測をしてみないと解りません。
最近のCAE技術の向上は良いことなのですが、それによって実験をする機会が少なくなってきているのはないでしょうか。あるいは組織の役割の細分化により解析部門と実験部門が分かれてしまっていることも原因としてあるかもしれません。いずれにせよ技術者が現象を体感する機会が少なくなってきています。また、ゲームなどの影響でリアルな体験が少ないということも根底としてあるかもしれません。重要なことはリアルな体験をどのくらい経験しているか、それと物理現象を自分で計測して、現象の体感と同時に計測値のオーダーを知っていることだと思います。これらを含めて”感覚”とします。
CAEを実施する上で、私はこのような”感覚”というものが非常に重要になってくると考えています。感覚が身に付いていれば、解析モデルの入力条件で現実的にでない条件を設定することも少なくなりますし、解析結果の判断においても、それが妥当な結果なのかどうかを適切に判断できるようになるのではないかと考えます。
初めの話に戻りますが、年配の人は当時CAEがなかった分、多くの実験を通して現象を体感してしているため、非常に感覚が優れています。怪しげな結果はすぐにおかしいと解ります。それは自分の経験と照らし合わせて、その結果が妥当なのか、そうでないかは直感で解るのです。また、具体値までは出せないにしても、どうすればどのくらいの値になるかも感覚的に解っています。こういった感覚は残念ながら解析だけやっていても身につけることはできません。もちろんその感覚だけではカンジニアリングだと揶揄され、技術者としては少々問題があります。
最も良い姿としては、そういった感覚を持ち合わせた人材がCAEを駆使することです。そうなるためには解析作業はもちろんのこと、実験、勉強、家事、子育て、遊び、スポーツ、等々すべてに真剣に取り組む姿勢が大事だと思います。そしてそれらのあらゆる経験を有機的につなぎ合わせることで、いわゆる”感覚”が研ぎ澄まされるのではないかと考えます。
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